人気ブログランキング |

M-51Parkaに関する2,3の事柄

映画「アメリカン・スナイパー」で描かれないこと

 映画の日ということで日本橋でクリントイーストウッドの「アメリカンスナイパー」を観てきました。(今回はちょっとシリアス(笑)なテーマです。)
 「アメリカ人」の狙撃手のお話、映画としては非常によくできていておもしろいのだけど、全米で大ヒットしているということも考え合わせると、観終わったあと非常に不安になりました。ふと耳に入る映画観賞後のカップルの会話もこの不安感を裏付けたりします。
 そもそもアメリカの軍隊が8000キロはなれた遥かな地で「非対称戦争」をなぜおこなっているのか?海兵隊はファルージャの町を包囲してなぜ市街戦を展開しているのか?アメリカ人の狙撃手に撃ち殺される彼らは本当にみんな「テロリスト」なのか?
 この映画を観るにあたって、最低限、物ごとを相対化した視点でみるリテラシーが必要であると感じました。そうでなければ、映画の主人公と同じくイラクに住む人々を「野蛮人」と蔑んで罵倒するメンタリティや、戦友が戦死したのは戦争の大義に疑問を抱いたからだという信念の吐露を共有してしまうことになりかねません。そして残念ながら実際にはそんなお客さんも決して少数とはいえない現実がありそうな気がします。
 
 2003年アメリカは、アル・カイーダやウサマ・ビンラディンあるいは9.11テロルとは何の関係もないイラクの世俗独裁政権に対し、「大量破壊兵器疑惑」を口実に戦争を仕掛けて武力侵攻します。結局「大量破壊兵器」はイラク国内のどこからも見つからず、開戦の口実そのものがガセだったことが明らかになった訳ですが、フセイン政権の崩壊の結果、統治機構が破壊されたイラク国内の状況は急速に不安定化し、米国も後継の政権を設置することに失敗して、武装勢力の割拠状態を生むことになりました。これがこの映画の舞台背景です。
 イランに対抗するため80年代にはフセイン政権を軍事支援していたアメリカ政府こそがフセインはイスラム原理主義とは全く関係ない世俗の独裁者であることを一番承知していたはずです。そしてその後、米国自身がそのイラクの統治権力機構を破壊したために、その機に乗じたイスラム原理主義の伸張、他国からの武装勢力の流入を招きました。この壮大な「マッチポンプ」の一番の被害者はイラクの市民であり、国家が崩壊し、社会生活基盤が破壊され、あるいは家族が殺されてしまったりと、米国に対する怒りと悲しみに同情を禁じ得ません。当時のブッシュ大統領やその政権のとりまき(チェイニーやラムズフェルド)は、ありもしない疑惑で他国の政権に戦争を仕掛け、政府を転覆したことについて何の責任も問われず(どころかPMCや石油利権でウハウハの疑惑さえ取沙汰され)、総括も反省もなされずに今に至っています。
 アメリカ社会の病理は、そのイラクでの戦争(ネオコンの儲け話)が、何故かテロとの戦いにすり替わっていることに気づかない(あるいは気づかせない)ことこそにあります。
 そしてこのアメリカ人の狙撃手は、イラクで戦争することが「テロリスト」を倒すことであることに一点の疑問もなく国家と一体化して戦います。ブッシュ(Jr)の戦争が「テロリスト」(蹂躙された側からみればレジスタンス)を生んでいることに全く想いが及んでいない(少なくとも映画ではそのようにみえる)のです。
 現在の「ISILの勃興」までに至る、この中東の大混乱の直接の始点となったブッシュ/ネオコン政府によるサダム(世俗)政権の打倒は、後世からみれば(「カノッサの屈辱(笑)」のような)歴史上の重大な転換点であるということが改めて確認されることになるのでしょうか。
 (追記:このように書くと3Kシンブンとかマに受けちゃうタイプの方から、「じゃあお前はテロを容認するのか!」とか「ISILがレジスタンスなのか!」とか「テロとの戦いに反対なのか!」とかご意見がよせられそうです(笑)。言わずもがななのですが、そう言うことではありませんので念のため。)
追記の2:たいへん鋭くかつ面白い分析の評論がありました!是非ご参照ください。
右の人は左と言い、左の人は右と言う炎上物件。
http://www.machikado-creative.jp/planning/4094/


a0164296_035714.jpg

by poemaquince | 2015-03-03 00:37 | 映画 | Comments(4)
Commented by John Doe at 2015-03-03 21:38 x
「カノッサの屈辱」というのはどの辺りが「強制されて屈服、謝罪すること」なのでしょうか?
Commented by poemaquince at 2015-03-03 23:14
John Doeさま
 すみません。「カノッサの屈辱」は「喩(たと)え」としてあまり上手くなかったです。
 叙任権をめぐる世俗の皇帝権力と教会の宗教権威との権力闘争のなかで、封建諸候の台頭が準備された(中世から近世への移行)というようなイメージです。カノッサ事件はまあそれにまつわる有名なエピソードなのですが、引用に深い意味は無く「ブッシュの戦争」とのアナロジーということでは全くありません。
Commented by TM at 2015-03-05 21:51 x
私も先日見ましたが正直面白かったです。
イラク戦争とブッシュ政権のウソについては映画「フェア・ゲーム」が鋭く斬り込んでいました。
これは事前に見てよかった作品でした。
「グリーン・ゾーン」では一向に見つからない大量破壊兵器に翻弄される兵士の目を通してイラク戦争とその後の占領政策に疑問を投げ掛ける内容でした。
ある方が言ってましたが、前政権を名指しで批判する映画を作ってしまうところがアメリカの凄さというか懐の深さでしょう。
Commented by poemaquince at 2015-03-06 00:35
TMさま
コメントありがとうございます。ご紹介いただいた映画、どちらも面白そうですね。川村は、「フェア・ゲーム」も「グリーン・ゾーン」も不勉強にて見逃しております。機会があれば是非見てみたいです。